畳屋さんでのお話です
- 作成者: hinokitatami
- カテゴリー: 畳インフォメーション
- タグ: 畳, 畳店
アンサンブル、竹野です。
長野県飯田市の畳店「畳のノノムラ」の野々村さんにお話を伺いにやってきました。
野々村さんとは仕事の関係で、よくお会いしてアドバイスを頂いたり大変お世話になっているのですが、お会いする度にいつも思うのは「ゴッツイ手だな~。」という、そんな印象の野々村さんです。
こんな話から始まりました。
野々村さん:最近日本では和風の傾向がどんどんなくなってきているけど、反対に海外で和室というか「和風」が受けとるらしい。 台湾やアメリカなんかあちこちで、ものすごく畳が売れてるんだって。
(~和食を含めて「和」というのが海外で評価されているのは聞いたことがあるが、畳を海外でも作って敷いているというのは驚いた。 いずれひのきの畳床を海外に輸出する、そんな機会もあるのだろうと思いつつ、野々村さんとのお話を続けた。~)
竹野:いつ頃から畳の仕事をされているんですか?
野々村さん:16歳からお弟子に入ったんです。 6年間の修行ですね。5年が奉公で、それから1年お礼奉公ってのがあるんです。 お礼奉公ってのは、5年間教えて下さったそのお礼としてやるんです。修行には18人位いたんですが、最後まで残ったのは自分ひとりだけでしたね。 一週間もった人は少ないね。 だいたいは3日後か次の日には辞めてってた。 朝3時半ですよ、毎朝。 その頃は畳の需要がものすごかったから。 徒弟制度っていう教育でやっていたしね。 6年の修行の後は、畳職人として5年間松尾町の別の畳店で使って頂いたんです。
竹野:最初の6年の修行やその後5年の間、その時代では畳の仕事はどのようだったのですか?
野々村さん:その頃は、畳床の機械はあったけど畳表をつける機械はなかったね。その後また5年位して機械の一部が出始めていたんですね。
竹野:どんな道具で畳表を付けていたんですか?
野々村さん:手当(てあて)と針、糸、それから包丁は大包丁、中包丁、小包丁ってのがあって、大包丁で畳床を切るんですね。針は、平針、返し針、ご座針とか5種類位あるんです。手当を手の平につけて針をぐっと刺すんですが、むかし針が手当を突き抜けて手をも突き抜けたことがあるんです。今も傷跡があるんですが。あと、長さを測る「ながさ」という定規や幅を測る「幅尺」というので寸法をとります。
(説明 : 畳は建築資材の中でも珍しく、材料を針と糸で縫って仕上げます。畳床の場合、昔のワラ畳床はワラを糸で縫い合わせていますし、アンサンブルで作る「ひのきの畳床」の場合は、ひのきウッドウールを糸で縫い上げています。 畳床に畳表を付ける際にも、糸で畳表や縁を畳床に縫いつけているんです。 その縫付け作業が今では機械化されているのです。 大きなミシンといったイメージでしょうか。 )
手当て
針
大包丁
ながさ
野々村さん:昔は手で運べる道具ばっかりだったから、お客さんの所へ行って現場で表替えをやったんです。新床(新築を建てた時に敷く畳)の場合は工場でやってたけどね。畳表を機械でつけるようになって、表替えでも畳を引き取って工場でやるようになったんです。 機械がある今でも板入れとか、茶室の炉があったり特殊な畳の場合は機械でなくて手でやらんとだめね。
竹野:昔の畳と今の畳で変わったことはありますか?
野々村さん:昔は縁(ヘリ)無しが庶民の畳で、縁のついた畳は高級な座敷用や庄屋の家とかお寺しか敷かれてなかったんです。 一般の家は全部縁無しだったんです。でも今は逆転して縁無しは高価な畳になったんですね。 最近は縁無しで半畳サイズの畳を市松に敷くっていう依頼が多くありますね。 半畳の場合は縁無しが多いけど、半畳で縁付ってのもありますね。
竹野:イ草の畳表について教えて下さい。 良い畳表はどんな畳表でしょうか?
野々村さん:お客さんにはいつも実物を見てもらって触ってもらっているんですけど、触るとすぐに良いものが判ります。
竹野:確かに弾力性というか、ハリが全く違いますね。
野々村さん:見た目では経糸が麻2本、ダブルで入っているのが一番良くて、麻と綿のダブルがその次、それから綿糸だけのものっていう具合ですね。
麻糸ダブル
麻綿
綿糸
でも、同じ麻と綿のダブル糸のものであってもイ草の品質によって大きく違う。 中には経糸の使い方や見た目は同じようなんですけどね、キズが付きやすい畳表もあるね。
野々村さん:本当に良いものは使って5~6年たった時の色つやが全然違うんです。 良い畳表を使っていかないとダメなんです。
竹野:見た目で分かりにくいとなると、何か見分ける方法は無いんですか?
野々村さん:良い畳表は、例えばこんな風に生産者情報がきちんと入っとるんです。 お客さんには生産者情報のしっかりした畳表を実際に触ってもらうんです。そしてお客さんの家に敷いた後に、お客さんにこの生産者情報タブを抜いてもらうんです。このタブには畳表を織った人の情報があるんです。
畳表の生産者情報タグ
竹野:畳の寸法ですが、この辺り(長野県)は江戸間と京間のどちらが多いんですか?
野々村さん:この辺はほとんどが江戸間だけれど、住宅(建築会社)によっては京間を使う場合もある。 厚みは大体が1寸八分あがりが多いね。
(説明:畳のサイズは規格で一律と思っている人がほとんどと思いますが、実は一枚一枚寸法が異なっています。 例えば、六畳の部屋であれば、六枚の畳全て微妙に寸法が異なっています。 基本的には、縦横寸法は大きく江戸間と京間に分かれ、江戸間の寸法は5尺8寸×2尺9寸(176cm×88cm)で京間の場合は6尺3寸×3尺1寸5分(191cm×95.5cm)なのですが、それより数ミリ大きかったり小さかったり、という具合です。 厚みにはさまざまあり、厚さが15mm程度のものから6cmのものまであるのです。)
野々村さん:畳は一見四角形(長方形)に見えるけれども、実際には五角形の畳がほとんどなんですよ。 部屋にはどうしもてミリ単位のずれがあって、畳はそのずれがあってもピタッと部屋に合わせて作ります。
この図面を見ればわかるように、数字にプラスマイナスがついています。 これは江戸間の基本寸法二尺九寸×五尺八寸からプラス何厘、マイナス何厘という意味です。(説明:1厘=0.3mm) だからこの畳は四角形でなくって、五角形をしとるんです。
竹野:長年畳に向き合ってきた野々村さんから見て、畳の良いところはどういったところでしょうか?
野々村さん:人によっては畳の上に布団を敷いて、起きたらまた布団を畳んで、というのが面倒だと。 椅子に座ってベッドに寝とれば体は楽(らく)だという人もおるけど、でも畳の生活は筋肉を使うから本当は体のためにはいいんですよ。楽をしようとしたら反対に体に良くない。最近はまた、手間をかけるのがいいという人がだんだんと増えてきている。 この前も若い人が家を建てるときに全部の部屋を畳にした人もいるしね。 いろいろと調べて畳を選んでくれる人も多くなっている。 いいものを使っていれば、何年も何十年も使えるし、長い目で見れば費用的にもいいんです。 畳が日本でまた復活したらいいね。
いつもにこやかな笑顔でお話をして下さる野々村さんです。 息子さんと一緒に二百枚近くのひのき畳を敷いてくださっています。
一枚一枚とても丁寧に仕上げて頂き、ありがたいです。